家畜の去勢

2012年06月01日

モンゴル人は、適切な繁殖をさせるために様々な手段を家畜に用いる。その1つが、去勢である。

家畜のほとんどが春に去勢をする。時折、大型家畜は秋に去勢する。夏冬には、去勢は行わない。

去勢の年齢は、子羊、子山羊は2ヶ月半から3ヶ月くらいで、牛は2歳、馬は4歳と様々である。(馬は、2歳という話もある。)去勢は、必ず子羊の去勢から始める。一番初めの去勢には、親をそばに置く習慣があり、縁起の良い日を選び、良い人に去勢してもらう。去勢を終えた家畜は、火の煙の上をまたがせ清める。去勢し終えて、起こす時に「蛆(ウジ)より前に、羽より軽い(Utnuus umnu Udnuus khungun)」「ドゥル、ドゥル」と唱える。これは、すぐに回復して、病気にならず育つよう願いを込めている。

子羊を去勢する日、去勢しない子羊に2人の子供がまたがって乗り、両側に降りるという。そして、子羊を母親の元に走らせるということをする。これは、双子の子供を望み、子沢山を望む慣習である。また、去勢は慣れた優秀な人にお願いする。知り合いでない人、嘘つき、泥棒、仕事のない人、怠け者などは、去勢をするどころか、家畜の近づくことも禁じられている。

家畜の去勢をする日は、小さな宴会を行う。馬、ラクダといった大型家畜の去勢は、近所でまとめて縁起の良い日に行う。大型家畜を去勢する時には、ゲルの東側にフェルトの敷物を敷き、その右側にバガナ(家の柱)の頭が北に向くように置き、家畜を去勢する人の右側近くに布に入ったシャル・ボダー(黄色の米)と一緒に木の桶に乳で薄めた水を入れ、その上にを置き、近くでアルツを焚く。子羊を去勢する人は、初めに「頭に白い筋の入った子羊を連れて来い」と言って、その子羊を連れてくる。もし、その子羊の去勢を行わないのであれば、額の上にウルム(クリーム)、タラグ(ヨーグルト)の上澄みをすくって額につけ、あごの下にお皿に持った食べ物をかかげ、炊いたアルツを3周させて清めると鼻の下にアルツをかかげ、祝詞を述べる。

私が見た羊と山羊の去勢は、こんな感じだ。まだ去勢されていない羊や山羊を柵の中に集める。(この時にはメスも一緒に集めておく)1人が手術する人としてナイフを持ち、1人が抑え役として待機する。他の人は、柵の中の羊達を捕まえては、彼らに手渡す。もし、メスの場合は耳に切り印を入れて、柵の外に出す。オスの場合は去勢され、止血として唾をかけられ、外に出す。全てが終わったら、取り出した睾丸を調理して食べた。ご飯と一緒に煮込んで出てきたのだが、なんとも生臭くて、食べるのが辛かった。でも、栄養がたっぷりなので、老人などは好んで食べるらしい。

馬の去勢は、青年3人で馬を倒し押さえつけ、熟練の男性がナイフ一つで去勢し、唾をかけたり、焼いた鉄を傷口に押し付けて止血する。取り出したものは、やはり食すという。中には、生で食す人もいた。取り出してまだ湯気の立っている睾丸をナイフで薄くそぎ、そのまま食べる。私も挑戦しみたが、噛んではいけなく、飲み込めというので、味などはよくわからなかった。ただ、臭みは感じなかった。しかし、このことをモンゴル人に話すと驚くので、かなり限定された人のみが食すようである。