ツァガーンサル

2012年03月01日

1.  ビトゥーン(大晦日)

日本と同じようにゲルの大掃除が始まる。トーノを拭き、ゲル中のゴミを出し、お正月に備えて自分で刺繍を施したものを飾りつけたりもする。また、家畜小屋や柵もきれいに掃除をする。

イデーと呼ばれるお正月の食べ物を飾りつける。羊の肩甲骨(dal)、4本の肋骨(durbun undur)、肋骨(habirga)、くるぶしのある骨(hont shagaat)、骨髄(chumug)、脊椎(khuzuu seer)、直腸(gorgaldai)を必ず置く他、オーツ(oots)と呼ばれる羊の丸蒸しを大きな器に決められたとおりに盛り、北の方角にいる仏様に頭を向けて置き、脇にナイフを添える。

もう一つの大きな器に、まずお米かボルツク(揚げパン)を敷き詰め、その上にヘビンボーブ(細長い模様つきのクッキー)を重ねて載せていく。(1段に3個か5個。それを5段置くと良いらしいが、器の大きさによって数は臨機応変に。)その上にエィウェン(丸い模様つきのクッキー)を載せる。家によっては、その上に松ぼっくりの形をした揚げパンを載せる。

そこにクッキーや飴、アーロール、角砂糖といったもので飾る。同じようにして小さいものを作り、仏様にも飾る。

ビトゥーンの夜に、オーツから肉を少しそぎ、ヘビンボーブのイデーからも少しお菓子を取り、犬に感謝の食として与える。犬も立派な家族の一員なのである。オーツの頭部に近いほうの上部を1ヶ所、臀部に近いほうの上部を2箇所そぎ、そこに蒸したボーズを載せる。

そして、家族でボーズを食べる。また、近所の家と正月料理を交換する風習もあるという。

また、ビトゥーンの夜に銃を放つと、翌年は狼が来ないと言われており、男性が外に出て空に銃を放つ。

2.  ツァガーンサル

正月とは、モンゴル暦の寅月1日である。ちなみに春の3ヶ月というのが、寅月、兎月、龍月である。この寅月1日には、お祝いがいくつも重なっている。まずは、新しい季節、新しい年の始まりを祝う日。全ての人が1つ歳をとることを祝う日。人、家畜とともに厳しい冬を乗り切ったことを祝う意味がある。

正月の朝は、夜明けとともに起きて、ウルフ(天窓を覆う四角い布)を開け、火を熾し、鍋を置く。そして、木の杵と臼で砕いたタヴァン・タンサグ(お茶、乳、塩、水、ソーダ)で味の濃いクリーム色のお茶を煮る。その最初のお茶はまず、天へ捧げ、仏様へ捧げる。シャルトス(黄色い油)を火の中に投げ込み、火の仏様に捧げる。また、アルツ(香草)やお香の煙を漂わせ、一番最初に削いだ肉を(最上の食べ物と考えられている)、お菓子、ボーブ(揚げパン)を皿に盛る。

正月には、白いものが敬まわれ、黒い物が避けられる。よって、乳製品を食べ、腹黒い考えは口にしない。また、新しく作ったデールを着るようにする。しかし、以前から着ているデールに少し手を施せば、それは新しいデールと考えられるため、毎年縫うことは無い。

また、新しく来た年の生活、所業などを天にゆだねる方角があり(毎年変わる)、朝、生まれた年によって決められたその方角にゲルを出て、決められた方向からゲルに入る。(muruu gargakh)

大晦日の夜に仏様のほうに向けておいた羊のオーツを南に向き変え、開いた口にシャルトスを入れ、額の近くにウルム(クリーム)、シャルトスを塗りつける。
地域によっては、太陽が昇る頃に、近くの山のオボーにハダグやイデー、アルツを奉納する。新1日目の朝、今年初めての子羊の口にシャルトスを塗り、鳴かせる風習がある地域もあるという。

年上の人に挨拶する時は手のひらを上にし、相手のひじ下に添えるように。相手が年下の場合は、手のひらを上に向け、相手のひじ上に添え、軽く両頬を合わせる。その時に言葉は「アマル バイノー?」もしくは「アマル サイノー?」。(ただし、18歳以上の場合。それ以下の場合は、言葉なしに挨拶だけで良い。)場合によっては、ハダグを両手に掲げ、挨拶することもある。その場合は、ハダグは挨拶した相手の元に渡る。しかし、右手の薬指にハダグを結びつけ、挨拶を交わすこともある。これは、年上の人が年下の人にハダグを渡さずに挨拶する方法である。帽子は被ったまま。もし、脱いでいたら被って挨拶する。

馬で挨拶に行く前に、馬のたてがみを整える。これは、ある程度温かい地域の習慣で、寒い地域では行われない。なぜならば、寒い時期からたてがみを切ると馬が寒がり、簡単に痩せてしまうためである。

お世話になっているゲルに挨拶に行く時は、新札のお金を用意する。(田舎では大体500tg。)挨拶の時に手渡す。

その後、男性は嗅ぎ煙草を交換。「新年楽しく過ごしていますか?(saikhan shinlej baina uu?)」「はい、新年楽しく過ごしています。新年楽しく過ごしていますか?」と挨拶。その他にも「あなたのお身体はいかがですか?」とか「子馬も子牛も無事冬を乗りきりって大丈夫ですか?」「家畜は肥えていますか?」といった事を聞きながら、挨拶を続ける。女性も嗅ぎ煙草を右手で受け取ると蓋を少し開け、匂いを嗅いで蓋を完全に閉めずに右手で返す。(両手で受け取るという話もある。)
ちなみに、一つのゲルに住む夫婦は新年の挨拶を交わさない。また、妊娠した女性同士も新年の挨拶を交わさない。お腹の子供が入れ替わってしまうと言われている。また、新年の挨拶を交わすのは、新1日目、3日目、5日目が良いとされているとあるが、実際には2日目、3日目と新年の挨拶に出掛けている。

その後は、イデー、ボーズを食べ、お茶、アイラグ、アルヒ、バラーシカ(自家製の炭酸ジュース)を飲んでくつろぐ。最年長者の男性がオーツを少しずつ削ぎ、そこにいる全ての人に配る。

子供達は、羊のくるぶしの骨(シャガィ)を使った伝統的な遊びをして過ごす。
新年の挨拶には男性だけが行く。その家の女主人は、挨拶にくる客人を迎え入れるために家に残る。そして、迎えたゲルの女主人は、客人の帰る前に贈物としてヘビンボーブやオーツのをそいだ肉、お金を手渡す。(お金は子供などには50tg。その他、高くても500tg。親戚だともう少しあげる家もある。)子供にとってはお小遣いを稼げる機会なので、馬に乗り勇んで挨拶まわりに出掛ける。

新年の1日目の夜に自宅で寝ないと、その1年は家に居着かなくなると聞いたが、他の地域の人にはそんなことはないと言われ、遠出して夜遅くなれば、当然泊まっていくものだと言われたので、地域性のものと思われる。実際に私も、友人の実家に泊めてもらった。

最後にお正月だからといって、遊牧の仕事をさぼる訳にはいかない。いくつかの家が交替で家畜の遊牧を行っており、たまたまお正月に当番になった家族が、きちんと家畜の面倒をみる。

3.  新年の競馬

新年3日目。新年を祝う競馬がある。私の過ごした田舎では、イフ・ナス(6歳場)とアズラガ(種馬)の2レースが行われた。

騎手の子供たちは、相当な厚着をし、また馬も毛深く、夏の競馬とはまた違った雰囲気を楽しめた。