草原のハイテク
世の中には理想と現実が異なることが沢山あります。
モンゴルにいらっしゃるお客様の多くは、遊牧民は電気も水道もない、とてもシンプルな生活をしている、と思って草原にやってきます。
しかし、現在の遊牧民の暮らしは。。。
意外と便利なものが揃っています。
まず、草原にやってきたのは、ソーラーパネルによる電灯。それまでローソクの明かりで生活していた遊牧民の家に電気の明かりが点りました。昔は、ローソクの灯りだけでは暗くて、ナランが小さい頃はよくつまづいて転んでました。今は、夜になっても本が読めます。
その次にやってきたのは、携帯電話です。昔は、村の電話交換局まで行って電話していました。いなくなった馬の情報を得るために、噂を元に何日も何日も出かけました。それが今やゲルから、どこへでも連絡が取れます。便利になりました。
馬のガイドをしている遊牧民の子が、突然ポケットから携帯を取り出す姿は、お客様には一番残念な場面のようです。「えー、何??」って反応が良く見られます。それで、遊牧民の子に馬のガイド中は携帯は止めようよー、とお願いをするのですが、遊牧民としては何日も探していた馬を、見かけたという情報は、後回しにできない情報。すぐに手の空いている家族に電話して、そっちの方へ確かめにやらなくては、また一から探さないといけなくなってしまう。うーん、難しいですねえ。
そして、テレビも普及してきました。ソーラーパネルが普及して、テレビを置くようになったゲルもあることにはあったのですが、その当時のテレビはとても電力を使うので、見たいドラマ以外の時間は禁止!だったのですが、最近は電力をそんなに使わないテレビが出てきて、一日中テレビをつけているゲルも出てきました。
小さい頃はテレビっ子だった私ですが、大人になるとテレビが雑音に思えることも増えてきました。なので、草原の我が家はテレビもなく、極楽だったのでしたが、とうとう今年のツァガーンサルに我が家でもテレビを買いました。草原では1年のほとんどが、サンボー一人なので、テレビでもないとシーンとしたゲルでシンドイのではと思ったのですが。。。結構忙しくて見る暇はないようです。おまけにヤギ達がアンテナで遊ぶので、しょっちゅうテレビが映らなくなるらしく、結局お飾りになっているみたいです(笑)
そして、とうとうソーラーパネルで稼動する冷凍庫が出てきました。肉を保存できない夏は乳製品を食べていたと言われる遊牧民。一年の内で、このシーズンは胃を休める時期だったのでしょう。それが、肉をあきらめられない遊牧民は、夏でも肉を食べたいために考えました。肉を細く切り、馬糞を焚いた煙でいぶし、少しでも保存を可能にできるようにしてきました。そして、今回の冷凍庫の登場。羊2頭分の肉が入ると言われている冷凍庫は、いつでも新鮮な肉が食べられ、遊牧民は大歓迎のようです。しかし、一年中お肉をそんなに沢山食べて、大丈夫なのでしょうか?
こうしてどんどん便利になっていく遊牧民の生活。人間が便利さを求めるのは当り前です。私達は便利を知っているから、不便の良さもわかるのだと思います。今の遊牧民は、村やウランバートルに行かないとなかった便利さが手に入るのですから、楽しくてたまらないと思います。サンボーは機械系が苦手だから、一歩引いているけれど、それでも結局皆の様子を見て、後を追います。
ただ便利になった遊牧民の生活に、都会と同じ問題も出てきているのは、残念です。テレビや携帯の普及で家族の会話が無くなっている、そんな気がします。テレビを見ている時って、一緒に見ているならともかく、家族に背を向けるじゃないですか。それって、私はあんまり好きじゃないです。ナランはテレビっ子なので、しょっちゅう私に背を向けてテレビを見ています。そんなナランの背中を見ると寂しくなって、ちょっかいを出しては、怒られます。草原でも、そんなのが始まるのはイヤですね。